新潟地方裁判所高田支部 平成3年(タ)7号 判決 1992年5月21日
原告
甲野花子
右訴訟代理人弁護士
野嶋恭
藤森茂一
被告
甲野一郎
右訴訟代理人弁護士
桑原正憲
吉田豊
主文
1 原告と被告とを離縁する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
主文同旨。
第二事案の概要
一原告(明治四四年八月三〇日生)と亡夫甲野太郎(昭和五九年一二月二二日死亡。以下「太郎」という)は、昭和五五年二月二九日、太郎の甥の子である被告(昭和二八年六月一四日生)と養子縁組の届出をした(記録編綴の戸籍謄本を含む弁論の全趣旨)。
原告は、太郎が生前経営していた訴外甲野株式会社の代表者で、被告は、ゴルフ場を経営している会社に勤務している(弁論の全趣旨)。
二当事者の主張
1 原告
原告は、離縁の原因として、原告は、前訴において、被告に対する離縁の請求が棄却されたが、その後、破綻状態が長期化し、深刻化したこと、被告は、原告の営む建設事業の後継者となることを諦め、ゴルフ場を経営している会社の営業職に転進したこと、太郎の相続に関し、調停により、遺留分減殺請求に対する価額弁償として、金一億九八〇〇万円を手に入れ、さらに、本来負担すべき相続税額のうち、金一九八六万三五〇〇円を原告に負担してもらったこと、専ら原告側に破綻の責任があるとしても、それは、太郎についてであり、原告は、妻として太郎の判断に従ったにすぎず、有責性の程度は質的にも量的にも極めて軽微であること、前記破綻状態の長期化により、原告の有責性は風化したこと、原告は、被告の変心により平穏な老後の生活が破壊され、老齢の原告にとって、これ以上、被告との形ばかりの親子関係を継続させられることは、極めて耐え難いことであることなどにより、原告と被告との間には縁組を継続し難い重大な事由があると主張した。
2 被告は、本件離縁の請求は、原告の請求が棄却され確定した前訴と同様、縁組を継続し難い重大な事由があるというのであり、前訴と基礎事実を同一にするものであるから却下されるべきである。かりに却下されるべきでないとしても、原告と被告間の養親子関係は、前訴の控訴審判決が同審の口頭弁論終結時である昭和六二年一〇月八日を基準時として判定したとおり、その当時既に破綻状態にあり、しかもそのことについて、原告はその責を免れることができないという実態のまま、現在まで継続している上、本件訴訟提起まで、何ら新しい事実は発生していないのであるから、原告の離縁請求は認容されるべきではないと主張した。
第三当裁判所の判断
(本案前の主張について)
原告と被告との間には、原告の被告に対する離縁の請求が棄却されて確定した判決があるが、その口頭弁論終結時以後に生じた事実は、本件において主張できるところ、原告の主張する事実は、同期日以後の事実の主張であるから、本件訴えは適法である。
(離縁請求について)
1 原告と太郎は、かねてより原告と血縁関係にあり実子同様に可愛がっていた訴外乙野春子(以下「春子」という)に婿をもらい、春子夫婦を養子にして原告らの老後を託すことを期待し、被告と春子を結婚させるつもりで、被告(当時二六歳)を養子としたが、被告が、昭和五五年九月二八日、春子に対し、結婚の結論を出すことはしばらく見合わせたい旨申し入れたことを、春子が、軽率にも、結婚の事実上の拒否と独断し、太郎に報告したことから、太郎も、性急にも、被告の許すべからざる変心と盲信し、被告と離縁することを決意した。そして、同年一〇月一三日、両者の結婚が不成立となることが確認されたことなどから、原告と太郎は、昭和五六年夏、被告に対し、離縁を求めて調停の申立てをしたが、同年一〇月七日右調停は不調に終わったので、昭和五六年一二月一六日、当裁判所に離縁の訴えを提起したところ(同訴訟係属中に太郎死亡)、請求を棄却され、昭和六二年一〇月八日に弁論を終結した東京高等裁判所においても、「原告と被告間の養親子関係は、破綻しているが、破綻の原因は専ら原告にあるとされてもやむをえないところといわねばならず、たとい原告の高年齢と被告に遺留分財産取得の期待があることを考慮しても、被告が建設関係の仕事に就いて、原告との養親子関係の継続を希求していることに鑑みれば、原告の離縁の請求は、信義誠実の原則に照らして容易に肯認し難いものである」旨の理由により、控訴を棄却され、更に、最高裁判所においても、平成三年九月一二日、上告が棄却された。
以上の経過などに照らすと、専ら原告の責任により原告と被告間の養親子関係は破綻するにいたっているところ、その期間は、原告らが離縁の調停を申し立て不調に終わった昭和五六年一〇月七日から起算しても、現在(平成四年四月九日)まで、約一〇年六か月が経過している。
2 被告は、現在、原告の営む建設事業の後継者となることを諦め、ゴルフ場を経営している会社の営業職に転進した。
3 被告は、平成二年一二月二五日成立した調停により、原告から遺留分減殺請求に対する価額弁償として、金一億九八〇〇万円を支払われることになった。その際、原告は、被告の要望をいれて、本来被告が負担すべき相続税金九七八六万三五〇〇円を金七八〇〇万円としたので、被告は、金一九八六万三五〇〇円の利益を得た。
被告の生活は、現在、十分安定しているとみられる。
4 原告は、現在、八〇歳の高齢となっており、一日も早く被告と離縁して平穏な老後を送ることを希望している。
以上の事実は、本件全証拠及び弁論の全趣旨により、認定できる。そして、右事実によれば、原告と被告との間は現在も破綻しており、かつ、原告の離縁の請求を認容することが信義誠実の原則に反するともいえない。原告の請求は理由がある。
(裁判官肥留間健一)